犬好きの日記

犬好きが書くブログ。特に犬の話をするわけではない。

ニール・ゲイマン「アメリカン・ゴッズ」感想

だいぶ更新が開いてしまった。

相変わらずコロナは収束せず、中国の動きで香港行きはもはや絶望的となってしまったが、今回はアメリカである。

ここ最近は気になる小説をひたすら読み続ける生活を送っているので、ぼちぼち感想などを書いていきたい。

今回書くのは、ニール・ゲイマン作「アメリカン・ゴッズ」である。

 

アメリカン・ゴッズ 上

 

聞いたことがある人も聞いたことが無い人も、ゆるいオカルト系ファンタジーが好きな人ならきっと気に入ると思うので、どうかお付き合いください。

ていうか、ニール・ゲイマンて誰?

ニール・ゲイマンは古くはアメコミの原作などを手掛けていたイギリス人作家の1人で、主に神話やオカルトなどのファンタジー小説を書いている作家である。

近年は彼の小説がAmazonビデオでドラマ化され、特に「グッドオーメンズ」が腐女子界隈で人気を博したと聞いた。

 

まあ、あれも面白かったのだけど、天使と悪魔が世界滅亡をなんとか阻止しようとするコミカルテイストの話とは違い、「アメリカン・ゴッズ」はどちらかというとエログロありきの暗い話で自分としてはこちらの方が好きだった。

オタクとオカルト・神話は親和性が高い。

しかも映像が幻視的で美しく、とにかくエロい(大事な事なので二回言いました)。

残念ながらシーズン3がコロナの影響か制作が中断されているようで、待てど暮らせど公開される気配がないため、とうとう原作に手を出してしまった。

ニール・ゲイマンの小説を読むのはこれが初めてなのだが、自分にとって良かった点も悪かった点も含めて、備忘録として残しておきたい。

アメリカン・ゴッズ」つまりアメリカの神々なわけで

 まず「アメリカン・ゴッズ」が全く初見という人のために簡単なあらすじを言ってしまうと、主人公のシャドウ・ムーンという男性が神々の諍いに巻き込まれるというストーリーである。

今更言うまでもないが、人種のサラダボウルであるアメリカには多種多様な人々が住んでおり、ネイティブアメリカン以外は皆、他の国から移住してきた移民だ。

その移民たちが我が物顔で生活しているこの国の宗教事情って、一体どうなっているの?というのがこの物語の主題と言って良い。

つまり、神という存在が実在するとして、彼らを信仰していた人間が他の土地に移住した場合、その神はどうなってしまうのかという事だ。

結論から言うと、彼らがかつて暮らしていた国で信じられていた神たちも、彼らの信仰と共にアメリカにたどり着く。

そして細々とながら生きながらえているという設定である。

 

その多くが多神教の神々なのだが、人間が創り出し小さなコミュニティで圧倒的支持を得ていた彼らが、大きなコミュニティに流れ着くとどうなるか・・・。

当然信望者は減り、力が弱くなっていく。

しかも彼らをアメリカに連れてきた人々の子孫たちは、彼らは彼らで新しい神々を創造するから、パイが増えるごとに彼らの信者は減っていき、信仰の取り分は少なくなる。

新しい世代が信望する神とは、つまりは新しい力と価値観だ。

グローバリゼーションの神、ニューメディアの神、テクノロジーの神、マネーの神などなど。

そういった時代に合ったものたちに信者を奪われ、古い神々はどんどん見捨てられていく。

そして彼ら自身も資本主義経済の波に飲み込まれ、ある者は家畜の始末人、ある者はタクシードライバーになるなどして、人間のように細々と暮らしている。

そんな中、ある古い神の一人が他の神たちに告げる。

「このままでは終われない、力を合わせてやつらに対抗しよう」

この神こそが北欧神話の主神オーディンことウエンズデーであり、主人公シャドウを引っ張りまわす張本人なのだ。

結構内容違うね?

で、話を小説版の感想に戻すが、一言でいうと「結構内容ちがくね?」である。

もちろん話の大筋は一緒なのだが、各キャラクターの扱いに小説版とドラマ版でかなりの差がある。

特に大きいのが、シャドウの妻ローラ、イフリートと関係濃厚なサリム、SNSで復活を果たした古代の神ビルキスの3人だ。

ドラマ版ローラは、とにかく自分中心な性格で嫌われキャラ面が目立ったが、小説版では自分の事はさておき、兎に角シャドウを救いたい一心で動きまわっている。

勿論再び生きたい、ゾンビ状態からきちんと蘇生したいという願望はあるのだけど、あまり性格的な難が見えずらいのは、ドラマ版でロードパートナーだったレプラコーンとの絡みが一切ないせいだろう。

(レプラコーンの最後は、ドラマ版・小説版ともに気の毒だった・・・。)

次に真面目で不運なセールスマンのサリムだ。

ドラマ版ではイフリートと一夜を過ごした後、彼を追って行ってハウスオンザロックで再会後、彼の傍に居続けるためにがっつり旧神陣営に身を置いていたにも関わらず、小説版ではまったく出てこない。

イフリートとホテルに入ってやる事やって、そこで終了である。

イフリートが持っていたタクシー運転手の身分を引き継ぎ、新しい人生を手に入れるところで終わっている。

最後に、シバの女王ビルキスだが、この人が一番ショックだった。

ドラマ版の方は彼女の栄枯盛衰をかなりの尺を使って取り上げ、出会い系SNSを使って復活を果たしエネルギーチャージした後は、主役側と敵側両方にコネを持つトリックスター的な立ち位置にいたはずが、小説版ではあっさり退場している。

つまり、ドラマ版は小説版をかなり拡大解釈した、再構成したうえで制作されているのだ。

他にもアナンシが老人から若者になっていたり、テクニカルボーイがギーク系太っちょからスタイリッシュ系スレンダーになっていたりと、小説→ドラマでキャラクターの容姿もかなり違う。

ちなみに、主人公のシャドウ自体も髪あり→髪なしに変更されているので、ドラマ版シャドウを頭に思い浮かべながら読んでいると、一瞬シャドウと認識できなかったりした(笑)

 

個人的には古き神々の中で殆ど唯一の成功者ともいえるイースターのキャラクターが好きだったので、 物語終盤でも彼女の出番があったのが嬉しかった。

 

そして、小説のラストで明かされる真実が、果たしてドラマ版でも採用されるのか?

 

ストーリーの鍵を握るシャドウの獄中仲間ロー・キー・ライスミスの正体にシャドウが気づく日が来るのか?

 

お願いだから、ドラマ版がこのまま打ち切りにならない事を祈るばかりである。