飛浩隆「廃園の天使」の復活を祝して
GWも終わりなので振り返りを行いたいと思う。
連休中、一度はブログを更新しようと思っていたのに気が付けば最終日だ。
思えば、いつも夏休みの宿題はギリギリまでやらない派だった。
人間そうそう本質は変わらない。
飛浩隆作品を3冊読んだ
この連休中に自分が「これだけは」と思いあらかじめ用意していたのが、言わずもがな読書だ。
つんどく状態で溜まってしまっている本を順番に片づけていった。
その中でも特に楽しみにしていたのが、飛浩隆さんの作品である。
SFファンならご存じだと思うが、寡作ながらも近年の日本SF界で大きな存在感を持つ作家さんだ。
この方の作品はこれまで代表作「廃園の天使シリーズ」しか読んだことがなかったのだが、そのうちの一つ「ラギッド・ガール」を再読して改めてハマってしまった。
なので、短編集などを連休に間に合うようにAmazonで注文しておいたのだ。
読んだ作品は以下の通りである。
- 「象られた力」
- 「自生の夢」
- 「ポリフォニック・イリュージョン」
最新作「零號琴」は他との兼ね合いもありキャパオーバーだったので、これは後のお楽しみにすることにした。
「象られた力」で描かれるスペースオペラ
短編集「象られた力」には4作品が収録されているが、ある特異な天才ピアニストを中心としたストーリー「デュオ」を除き、あとは宇宙が舞台である。
特に表題作である「象られた力」と「夜と泥と」は同じ世界観を共有しており、宇宙開発および人類が居住する惑星のテラフォーミングを管理する組織として「リットン&ステインズビー協会」なるものが登場する。
こういう設定すきだなあ。
個人的にはもうちょっとこの協会がらみでストーリーを広げて欲しい。
また別作品で登場する事を期待したい。
「自生の夢」に見る間宮潤堂の可能性
短編集「自生の夢」には7作品が収録されているが、このうち4作品は連作である。
この連作に登場するテクノロジーや企業はどれも現代を微妙にズラしたような設定なのだが、最初の3作品に登場する新世代の申し子アリス・ウォンが主人公かと思いきや実は違う。
真の主役は、間宮潤堂という男だ。
アリス・ウォンと間宮潤堂は、どちらも「言葉」という世界において卓越した才能を持っている。
アリス・ウォンが新技術を用いた詩作において世界中を虜にするアイドル的立ち位置である一方、間宮潤堂はその文章と言葉で人すら殺せるほどの力を持つ。
しかも間宮潤堂は、ストーリー開始時点で既に故人だ。
その既にこの世にいない男がなぜ、どのようにしてこの世界に蘇ったのかは作品を読んで頂きたいが、この作品が作られた経緯の方がどちらかと言うと面白い。
作者の飛浩隆先生いわく、この作品はある作家たちへの激励のために書かれた。
その作家とは、円城塔だ。
円城塔は、友人である伊藤計劃の絶筆「死者の帝国」を代わって書きあげたが、この
「自生の夢」はその作業へのエールであると飛先生は語る。
なぜこの作品がそのような意味を持つのかは、本の巻末にノートとして収録されているので、是非読んで欲しい。
もちろん、単純に作品としても楽しいし面白い。
特に間宮潤堂は飛先生も気に入っているらしく、若かりし頃の彼を主人公とした別作品も書いておられる。
こちらも、いずれどこかの時点で本にまとめられるとよいなあ。(掲載雑誌がもう手に入らないようなので)
個人的には、飛浩隆先生が映画版「機動警察パトレイバーⅡ」をお好きだという所にシンパシーを覚えて嬉しくなった。
いいよね、パトレイバー。
「ポリフォニック・イリュージョン」
最後に「ポリフォニック・イリュージョン」だが、こちらは飛先生の初期作品および書評やインタビューが纏められた本である。
個人的には特に短編小説「地球の裔」が好きだった。
他にもいろいろな作品が収められており、小説「星窓」は「自生の夢」に収められていたリミックスバージョンとは別バージョンになっている。
これを先に読んでおけば、「自生の夢」に収録されていた方のストーリーがなぜあのような事になっていたのかが解明する。
自分は「星窓リミックスバージョン」を先に読んでしまったので若干混乱した。
また、解説等には先の円城塔と伊藤計劃との関係についてより詳しく語られているので、こちらもファンにとっては嬉しいだろう。
自分は伊藤計劃の作品は未読だが、これを機会に読んでみたいと思った。
「廃園の天使」の復活
廃園の天使シリーズの第一作目「グラン・ヴァカンス」と、その設定短編集「ラギッド・ガール」を初めて読んだときは震えた。
たぶん、読んだことのある方はお分かりになるだろう。
先にも書いたように、飛浩隆先生は寡作だ。
もう30年以上作家をされている割には、発表された作品は少ない。
「廃園の天使」も、あの世界観を作り出すのに10年掛かっている。
最初にこのシリーズを読んだ時は、単行本が出てから6年くらいたっていたので正直ガッカリしたのだ。
「ひょっとしてこの作家さん、もう続きを書かないんじゃないか?」と。
あまりにも面白い作品ゆえに、そしてまだまだ解明していない設定や謎が多すぎるゆえに、読者としては歯がゆすぎるのだ。
物凄い寸止め感を味わわされる。
このシリーズは全3部作らしいが、失礼ながら作者がもうあまりお若くないので、要らない心配までしてしまう。
なので、求めても与えられない焦燥と、傷つきたく気持ちもあってこれまで無意識に飛浩隆を避けてきた。
それが、数年ぶりにふと「ラギッド・ガール」を読んでしまったがために再燃してしまったのである。
だが、こういう時の本好きのカンは侮れない。
なんと、最近になってこのシリーズの続編が連載されていたのだ!
SFマガジン2020年2月号より、「空の園丁」が開始されている。
飛浩隆氏の『空の園丁』ですが、SFマガジン来年2月号といいますか、今年の12月25日発売の2020年2月号、創刊60周年記念号からの連載となります。連載がどのぐらい続くかはわかりませんが、連載が終了してから単行本化までに7年もかからないように心掛けたいと思います。よろしくお願いします。 https://t.co/IMWeVqlHB0
— 塩澤快浩 (@shiozaway) 2019年7月29日
単行本化まで7年・・・。
先行きは遠いな。