犬好きの日記

犬好きが書くブログ。特に犬の話をするわけではない。

西餅「僕はまだ野球を知らない」を紹介したい

マイナーながらも個人的に大好きな作家、西餅先生の最新作がいったん完結してしまった。

このマンガは、野球のまったくできない若い監督が、統計学を使って弱小高校を甲子園に導くというお話。

な、何言ってんだかわかんねーと思うだろうが、順に説明していくぜ。

 

「僕はまだ野球を知らない」のあらすじ

舞台は、浅草橋工業高校の野球部。

この高校で物理教師をしている宇佐智己(うさともき)は、子供の頃から大の野球好き。

だが運動神経の悪さが災いし友達の野球仲間にも入れてもらえず、いつもただ見ているだけの幼少期を過ごしてきた。

そんな野球への欲求不満を溜めに溜めたまま大人になった宇佐が、突如野球部の監督に就任する事が決まる。

張り切る宇佐だったが、「野球をプレイしたことがない」監督に部員たちは不安を抱く。

部員たちの不安をよそに、次々と斬新な視点で野球部を「改革」していく宇佐。

次第に目に見えて成果が出始め、部員たちも徐々に宇佐を信頼していく。

宇佐「勝てる野球、はじめませんか?」

犬好きがこのマンガを読む理由

ぶっちゃけ、私は野球に興味がない。

野球のルールも細かい事とか全然わからない。

スクイズとか名前くらいは聞いたことあっても何のことやらさっぱりだし、ディレイドスチールにいたってはファイナルファンタジーとかの主人公の名前かと思った。

でも、興味がないなりに「西餅先生のマンガだから」と思って手を出して、予想通りに面白く、野球にほんの少し興味を持てるくらいにはなってしまった。

過去には川原泉先生の「甲子園の空に笑え!」とかも作者買いで読めていたので、このマンガも多分そのノリだと思う。

まずこのマンガの何が面白いって、宇佐先生の経営手腕だ。

物理教師をしている宇佐先生のモットーは、とにかくデータと合理化!

下手に少年野球チームや野球部を経験してこなかった分、宇佐先生には「野球部はこうあるべき」という固定観念がない。

切るべきところは切って、新しく有用なものはどんどん導入していく。

グラウンド上のゾーンデータ、キネクトを使用したトラッキングシステム、アイトラッキング等々、そこから得たデータを元に統計学セイバーメトリクス)を駆使し、次々と選手たちの能力をモデリングしていく。

選手の強みと弱みをデータで把握し、それをトレーニングによって強化もしくは克服する環境を整え、一人ひとりの個性を最大限に伸ばす方法を宇佐先生は模索する。

さらには、栄養管理による食事内容の見直しや、ミーティング時の意見交換のしやすさなどにも着手してしまう。

野球部に限らず、体育会系の部活にありがちな「因習」を徹底的に排除し、チームプレイとしての野球とはどのようにあるべきかをとことん突き詰めていくのだ。

 

これって、監督が当然やるべき仕事だと素人の自分は思っていたのだけど、どうやら一般的にはそうではないらしい。

たかが高校野球、されど高校野球

宇佐先生のやり方はプロ野球の世界ならまだしも、普通の高校野球部のやり方からは(多分)逸脱している。

あくまでも高校野球に限った話でプロはまた違うのかもだけど、作中の監督たちは「長年のカン」を頼りに、当然のように自分の好みを選手に押し付ける。

それにより、当然のように個性(才能)を否定された選手たちは、やる気を失ってしまう。

「可能性とやる気を奪ってしまうのが、どんなに酷いことか分かっていますか?」と宇佐先生は言う。

純粋に野球を楽しめていた子供時代から成長するにつれ、たまたま所属していたチームの監督(大人)から才能を否定されやる気を失ってしまった選手(子供)たちの秘めたる可能性を、宇佐先生は次々に見出していく。

それは、強豪校で監督をする父親のやり方を昔から見てきたゆえの彼なりの結論であり、彼は絶対に「父親のようなやり方はしたくない」と語る。

・・・こういう風に書くと至極真面目な内容に思えるが、西餅マンガ特有の脱力したギャグセンスをベースにストーリーはユルく進んでいく。

 

西餅先生らしい視点が光る良作だと思っていたのだが、残念ながら現在は連載終了している。

全5巻をもってこのマンガは終了してしまった。

「僕はまだ野球を知らない」復活するってよ

とか別れを惜しむような事を書いてはみたものの、実はこのマンガ復活するらしい。

西餅先生のTwitterおよび、単行本の巻末にもそう書かれていたので多分間違いない。

これまでの西餅マンガはどれも4~5巻で完結してしまっていたため、今回もその例に漏れなかったわけだが、続編の話が出ているのならこれはもうファンとしては嬉しい限りだ。

「どのような形になるかわからない」という書き方が若干気になるが、古い言い方だが正座で待機したいと思う。

それくらいに期待は大きい。

願わくば、同じ世界観の作品「ハルロック」にてハルちゃんを電子工作の道に引きずり込んだ張本人、原崎数一先生の出番がもっと増えると嬉しい。

せっかくなので他の西餅マンガも紹介したい

 このように、西餅マンガの根底にあるのはアウトサイダーだ。

犬神もっこすの犬神くんも、「ハルロック」のハルちゃんも、「僕はまだ野球を知らない」の宇佐先生も、みんな主流からは外れた存在ではあるが、そこにこそ自分の道を見出している。

特に「ハルロック」のハルちゃんにいたっては、彼女のお母さん目線でその異様さがあぶり出される。

確かに、自分の娘が年頃になってもオシャレや異性にまったく興味を示さず、毎日ひたすら電子工作に精を出していたら、そりゃあ心配にもなるだろう。

でも当の本人はまったくそんな事気にしてないし、「毎日こんなに楽しいんだから何も問題ないと思うけどな~」と言い切れるその強さ。

作中でも言われているとおり、既に自分が夢中になれるものを知っている人はそれだけで一生ハッピーでいられるのだ。

この「僕はまだ野球を知らない」の宇佐先生も、部費のみならず私財まで投じ「自分がやりたくてもやれなかった野球に関われなんて、貯金使い果たしてしまうくらい嬉しい!」と言い切る。

たとえ周囲から変人扱いされていても、自分にとっての幸せをどこまでも突き詰る人生は幸福であると。

西餅先生のマンガは、アウトサイダー達に勇気をくれるのだ。

 

 

良ければ、西餅先生の別作品「ハルロック」について書いたこちらの記事もどうぞ。

 

inusukki.hatenablog.com